[人が手を入れずに山を守る]
豊かな水源を守る
真っ青な空をそのまま映し出しているかのように青く輝く水面。驚くほどに透明な流れの中を、魚の群れが優雅に泳いでいます。
「鮎があちこちで少なくなったという話を聞きますが、北川にはたくさん鮎がいるんですよ」と話すのは、北川漁業協同組合の長瀬一己組合長。「豊かな水をつくる」という目標を掲げ、さまざまな活動を行っています。
中でも全国的に注目を集めているのが、「水を守る森を残そうかい」を合い言葉に行っている活動です。この活動、北川流域にある、樹齢30年以上の雑木林を地権者から借り受けて、伐採することなく保全し、北川の水源となる森を構築しようとするものです。
なぜ雑木林が豊かな水をつくるのか。長瀬さんはその理由をこう語ります。
「雑木林を構成しているさまざまな樹木は、地中深く根を張り、土砂の流出を抑え濁水を防ぎます。また、落とされた葉は腐葉土となり、そこを通る雨水が栄養豊かな水を川へと運びます。川に流れた栄養塩は、プランクトンの餌になりそれらを補食する魚たちを育てます。だから北川にはたくさんの魚がいるんです。」
人が手を入れずに山を守る
「例えば、1000年のカヤノキを作ろうとしたとき、植樹から行うと1000年掛かります。しかし500年経ったカヤノキを切らずにそのまま残せば、その期間が500年で済みます。
雑木林も同じで、100年の森を残そうと考えてるわけですから30〜50年の雑木林を借り上げて伐採しないようにすれば、残りの時間で100年の森ができます。
また、植樹して、その後は苗木をシカの食害から守るための対策、巻き付いた蔓(つる)切りなど、ある程度の時期までは人手が必要となり、かなりの経費を確保しなければなりません。北川漁協では、そんなお金がないのでシカの食害の心配も無く、蔓(つる)が巻き付いても問題のない30〜50年生の雑木林を借り上げたら効率的ではないかと考え、守らなければ切られてしまう今ある雑木林を活用することで、時間や手間をかけず、自然の循環サイクルに役立つ豊かな森林を残していくことを実践しています。」
身をもって水の大切さを知る
流域の雑木林の力で豊かな水が流れる北川。長瀬さんは、この清流に親しんでもらうことで水のありがたみを知ってもらいたいと、さまざまなイベントを開催しています。
「魚釣り大会やつかみ取り大会など、きれいな川で1日たっぷり遊ぶことで、水の大切さが身をもってわかるんです。それがとても大切なんですよ。話や文章で知るのと、自分で経験するのとでは理解の度合がまったく違いますからね。」
毎年11月に行われる「ふれあい魚釣り大会」には遠くは福岡からの参加者もあり、1000名以上の人が北川の美しさに感動して帰って行くのだそうです。
「私がイベントを行うのは、来てくれた人に、〝自分の地元の川をきれいにしよう〞という思いを広げたいからです。きれいな川で楽しい体験をしてもらい、水がいかに貴重なものなのかに気付いてもらう。そしてその水を守るために、自分に何ができるのかを考えてもらえればと思っています。」
珪藻や藍藻が付きやすくするために川床の石を磨き、鮎の生息環境を良くする「マイストーン作戦」。活動を通じて、自分たちの川という意識が芽生えます。
普段は漁協組合員だけに許されている伝統漁法「チョン掛け」を体験する「鮎チョン掛け大会」。透き通った水の中を大群で泳ぐ鮎の姿は圧巻です。
人と人、自然と人とのふれあいを目指して行われる「ふれあい魚釣り大会」。「きれいな水だからこそ、たくさんの人たちが集まってくるんですよ」と長瀬さん。
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