平成24年11月4日、宮崎県高原町にある皇子原公園。今にも雨が降り出しそうな空模様の中、「全国屈指の過酷なコース」、と大会事務局が自負する霧島登山マラソンがスタートの時を迎えようとしている。

 高原町は神話と関わりが深い町で、今年、編さん1300年を迎えた古事記にも登場する日本の初代天皇・神武天皇の生誕地といわれている。高原という名前も、神々が暮らした「高天原」に由来しているらしい。

高低差1200メートル・コース距離9キロ

[284名の挑戦者たちが挑んだ!]

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高低差1200メートル・コース距離9キロ

 その高原町にそびえる高千穂峰を舞台に行われるのが霧島登山マラソンだ。
皇子原公園をスタートし、高低差1200メートル・コース距離9キロを、高千穂峰の頂上を目指してひたすら登り続ける、体験者いわく「かなりクレイジー」な大会らしい。ちなみに、「競争じゃなく挑戦・順位じゃなく達成感」というのがこの大会のキャッチフレーズだ。

 ラン歴およそ2年の筆者が今回初挑戦することになったのは、一度出場して大会に魅了された会社の先輩に誘われてのこと。一応はフルマラソンを一度完走(足を引きずりながら何とかゴールで4時間15分)したことはあるものの、9キロの登りを走り続けるなど想像が付かない。試しにと走ってみた地元の坂道1キロ弱でさえ、息も絶え絶え、足元はふらふらで前に進まないというありさまだったのである。


284名の挑戦者たちが挑んだ!

 神話の里ともいわれる高原町だけあって、開会式は神事から始まった。選手宣誓では、力強い「選手みんなが完走することを誓います」という言葉が飛び出し、「おいおい、そんなことを宣言されても」と心の中で突っ込みを入れながらも、これは意地でも走り切るしかないと腹をくくった。

 午前10時、いよいよレーススタート。284名の挑戦者たちは待ってましたと軽快に走り出す。筆者もカメラ片手にその流れに乗る。この体験記のために写真を撮影しながら走るのだ。


舗装された道が高千穂峰の登山口まで続く

 集団の前方まで加速して振り返り、シャッターを押す。ブレずにちゃんととれているかチェック。うん、いい感じ。撮った写真を確認しながら走れるほどの余裕がある。このペースでいければ、案外余裕でゴールできるのかも、と自分の実力を激しく錯覚しながら坂道をサクサクと駆けて行く。

 前半の5.5キロは林道ステージと呼ばれる区間で、舗装された道が高千穂峰の登山口まで続く。大会前に人のブログでチェックしたのだが、ここでいいポジションを確保しておかないと、山中の道は細いので追い越しが難しいとのこと。それもあったので、若干ペースを上げていく。


激しく息が上がり、ペースはがた落ち

 1キロ地点。「まだまだ序盤戦」と書いた標識。すでに激しく息が上がり、ペースはがた落ち。それでも、大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせる。

 アスファルトの道は杉木立の中へと続いて行く。沿道で応援してくれる地元の家族連れに、ありがとうと応える。レースに出場したことのある人ならわかるだろうが、沿道からの応援ほど力になるものはない。気合いを入れて、落ちていたペースを戻す…つもりが、どうにも体がいうことを聞かない。情けないことに、これ以上ペースが落ちないようにするのが精一杯だ。


ここはもう歩いてしまおうか。いや、誘惑には負けてたまるか。

 2キロ地点。標識には、なんて書いてあったのだろう? まったく覚えていない。3キロ地点も同様。撮影した写真を振り返ってみても、この区間のものは1枚もない。ただただ前に進むのが精一杯で、そんな余裕などなかったのだ。

 4キロ地点。もはや走っているのか歩いているのかわからない。歩いた方が速くて楽なのでは、と思いつつ、ここで歩いてしまっては二度と走れなくなると、意地で走り続ける。ちなみに4キロの標識はしっかりと覚えている。まだか、まだかと走り求めた標識を忘れようはずがない。写真もしっかりおさえている(立ち止まるための口実だ)。そこにはこうある。「無理せず、焦らず」。ここはもう歩いてしまおうか。いや、誘惑には負けてたまるか。


フルマラソンのしんどさなど、比べものにならない

 ここからは、もはや自分との戦いである。歩いている人を見つけるたびに、「もう楽になりなさい」と、頭の中で誘惑の天使がささやくのだ。

 それにしても、ラン歴が2年程しかないとはいえ、こんな苦しさは初めての体験だ。初めて走ったフルマラソンのしんどさなど、比べものにならない。息も絶え絶えになんとか脚を前に運ぶ。

 林道ステージ終了まで残り500メートルの5キロ地点。「給水所まであと少し」と標識。水や食べものなどどうでもよい。とにかく止まって休みたい。ただそれだけ。


あまりのつらささに笑いさえ出てくる

 ここからの500メートルは果てしなく長く感じた。急勾配(と感じていただけだろう)のヘアピンカーブを曲がる度に、もう給水所に辿り着いただろうと思うのだが、その期待は何度となく裏切られる。あまりのつらささに笑いさえ出てくる。これまで前を向いていた視線もいつしか足下一点集中に。果てしなく続く登り坂が視界に入ると、なんとかここまで絶えて来た気持ちが折れてしまいそうで恐いのだ。

 コーナーを曲がる。坂道が続く。コーナを曲がる、まだ坂道が続く。
 何度とこの悪夢を繰り返しただろう。もう限界だ、歩こう。そう思った時、これまで頭上を覆っていた木々が開け、鉛色の空が頭上に広がった。


スタートして40分、最後まで走り通した

 スタートして40分。我ながらよく頑張った。誘惑の天使に負けずに最後まで走り通した。林道ステージのフィニッシュ。このレース唯一の給水所に辿り着いたのである。

   しかし、この時点でも、マラソンのゴールラインを通過した時のような安堵感や開放感はまったくない。なぜなら、ここが感動のゴールではないからである。

 ここからようやく登山マラソンたる所以、山岳ステージに突入するのである。 (続く)


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体験者いわく「かなりクレイジー」な大会らしい 霧島登山マラソン体験記 写真

やっほーさん

休日はミラーレス一眼を片手に、よくえびの高原に出かける。好きなブランドは「パタゴニア」。最近は、韓国岳・登山口付近の草原が気になるスポットです。

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    高原町

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