九州山脈の東、山々の連なりが太平洋に向かうそのほどにある宮崎県木城町
照葉樹の森に抱かれるように「木城えほんの郷」は広がる

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 「ここにはまだ山びこも住んでいます。いつかゆっくり遊びに来ませんか」。一通のパンフレットに誘われて「本城えほんの郷」へ旅をした。

 宮崎県木城町は全体の約8割が森林で、その中ほどをゆったりと小丸川が巡っている。えほんの郷がある石河内地区は、この川の中流部、町の中心からは峠を一つ越えた所にある。


 「どうしてあんな山里でするんですか」 10年前、えほんの郷を立ち上げる実験的な試みとして、世界的に有名なスロバキアの「ブラティスラバ世界絵本原画展」を企画したとき、最初は誰もが首をかしげた。絵本に携わる人なら一度は見たいと思うコレクションである。だが、それを石河内で開いて、果たして人が集まるのだろうか、と。

そんな懸念をよそに、「あそこじゃなきゃいかんちゃ」と企画を推し進めたのが、えほんの郷の村長で版画家の黒本郁朝さんだ。多少の不便さは承知の上で、あえてこの豊かな自然の中で絵本文化を伝えたい。石河内のゆったりとした時間の中でその世界に浸ってほしい、と思いを込めた。


 結果、10日間で延べ1万人が訪れるという大盛況たった。その手応えをもとに平成8年4月。「森のえほん館」を中心に「森のきこり館」「森のコテージ」「森の芝居小屋」の施設群からなる「本城えほんの郷」が完成。3年後には「水のステージ」も登場し、来館者はすでに25万人以上に及んでいる。


 えほんの郷へは、小丸川沿いの道 水上線 と、山間を行く 山の手線 がある。その道の途中には、「だくちるの洞くつ」「つむじまがり」などと愛らしい看板が次々に現れて案内してくれる。そうして着いた郷は、深い緑の中。周囲の山並みには「鹿遊」という美しい名前がついている。

 1日1回、日向灘の海水を飲みに行くという青バトが棲んでいるのはこの森だろうか。お天気のいい冬の昼下がり、霜柱が溶けて小石を転がす音が聞こえるのもここだろうか。目の前に広がる、ため息の出そうな自然は、まさに物語そのものだ。


文 :船木麻由
写真:笹山明浩


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miyazaki ebooks編集部

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