「宮崎って、使える歌がないんですよ」
ここあ猫は突然そう切り出した。
とある飲み会の席。初対面だったにもかかわらず、出身地が同じだったことと
音楽の趣味が似ていたことで意気投合した私たちは、いつの間にか仕事のグチをこぼし合っていた。
「使える曲って?」
「県外のイベントで宮崎のPRするじゃないですか。ほかの県のブースにはにぎやかな音楽が流れているのに、宮崎はそういう曲、ないんです!イベントで使えるようなポップなみやざきソングがない!お客さんが素通りしちゃうのがすっごいクヤシイ!!」
某キャラクターの人気で客を集める隣県のブースがよっぽどうらやましかったのだろう。
おっとりしていた彼女の口調が荒くなる。
「確かにねー。そういうのはないね」
「でしょ?でしょ?なんで作ってくれないんですかね!?」
「そりゃお金がないからでしょ」
「・・・・・・ですよねー」
そうなのだ。予算がない。国同様、地方自治体だって火の車。
そもそもうちの県にはゆるキャラすらいない。
県のテーマソングなんて、作るはずないのだ。
しょうがないよね~、で、終わるはずだった。
ふつうなら。
「作れないですかね、曲」
「え?何もしかしてそういうの出来る人?」
「いや、私は全然ですけど、ニコニコ動画ってあるじゃないですか」
「あるねぇ」
「あそこにすごいクリエーターさん、いっぱいいるじゃないですか」
「いるねぇ」
「あれだけいるんだから、一人くらい、宮崎に住んでる人、いるんじゃないですかね?」
「そりゃいるかもね」
「そういう人が作ってくれたらいいですよね?キナコさん」
「いいねぇ」
次の日。
ここあ猫とは仕事でもともと知り合いだった同僚のゴッシーに、昨日のことを話した。
「あー、そういや前も言ってたな。音楽がほしいって。確かにあるといいよな」
「ふーん。彼女音楽好きなんだね。今度カラオケ誘ってみようかな」。
すると、ここあ猫からゴッシーと私宛に1通のメール。
タイトルは「企画書を送ります」。
添付されていたファイルを開くと、イラスト付きのかわいいレイアウトの上に、
こんな文章が書かれていた。
みやざきニコ歌プロジェクト(仮) by 宮崎の歌作り隊
説明しよう! このプロジェクトは、簡単に言うと、宮崎のテーマソングを作っちゃおうという企画さ! でもメンバーには誰一人、音楽が作れる人がいない! そこで、県内から曲作りができる人を探し出し、作ってもらっちゃうのだ!
企画書の後ろのほうに、小さく書かれたメンバー表。 そこには、長男:ゴッシー、長女:キナコ、次女:ここあ猫、と、3人の名前が並んでいた。 「ここあ猫・・・テンション高いな。てかマジだったのか」 「いつの間にかメンバーに・・・」 私たちは、顔を見合わせた。 これが、始まりだった。

























