ゆるいうたのつくりかた

ゆるいうたのつくりかた 第一話 巻き込まれる

「宮崎って、使える歌がないんですよ」 ここあ猫は突然そう切り出した。 とある飲み会の席。初対面だったにもかかわらず、出身地が同じだったことと 音楽の趣味が似ていたことで意気投合した私たちは、いつの間にか仕事のグチをこぼし合っていた。 「使える曲って?」 「県外のイベントで宮崎のPRするじゃないですか。ほかの県のブースにはにぎやかな音楽が流れているのに、宮崎はそういう曲、ないんです!イベントで使えるようなポップなみやざきソングがない!お客さんが素通りしちゃうのがすっごいクヤシイ!!」 某キャラクターの人気で客を集める隣県のブースがよっぽどうらやましかったのだろう。 おっとりしていた彼女の口調が荒くなる。 「確かにねー。そういうのはないね」 「でしょ?でしょ?なんで作ってくれないんですかね!?」 「そりゃお金がないからでしょ」 「・・・・・・ですよねー」 そうなのだ。予算がない。国同様、地方自治体だって火の車。 そもそもうちの県にはゆるキャラすらいない。 県のテーマソングなんて、作るはずないのだ。 しょうがないよね~、で、終わるはずだった。 ふつうなら。 「作れないですかね、曲」 「え?何もしかしてそういうの出来る人?」 「いや、私は全然ですけど、ニコニコ動画ってあるじゃないですか」 「あるねぇ」 「あそこにすごいクリエーターさん、いっぱいいるじゃないですか」 「いるねぇ」 「あれだけいるんだから、一人くらい、宮崎に住んでる人、いるんじゃないですかね?」 「そりゃいるかもね」 「そういう人が作ってくれたらいいですよね?キナコさん」 「いいねぇ」 次の日。 ここあ猫とは仕事でもともと知り合いだった同僚のゴッシーに、昨日のことを話した。 「あー、そういや前も言ってたな。音楽がほしいって。確かにあるといいよな」 「ふーん。彼女音楽好きなんだね。今度カラオケ誘ってみようかな」。 すると、ここあ猫からゴッシーと私宛に1通のメール。 タイトルは「企画書を送ります」。 添付されていたファイルを開くと、イラスト付きのかわいいレイアウトの上に、 こんな文章が書かれていた。

みやざきニコ歌プロジェクト(仮) by 宮崎の歌作り隊

説明しよう! このプロジェクトは、簡単に言うと、宮崎のテーマソングを作っちゃおうという企画さ! でもメンバーには誰一人、音楽が作れる人がいない! そこで、県内から曲作りができる人を探し出し、作ってもらっちゃうのだ!

企画書の後ろのほうに、小さく書かれたメンバー表。 そこには、長男:ゴッシー、長女:キナコ、次女:ここあ猫、と、3人の名前が並んでいた。 「ここあ猫・・・テンション高いな。てかマジだったのか」 「いつの間にかメンバーに・・・」 私たちは、顔を見合わせた。 これが、始まりだった。