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向ヶ浜で過ごす、“特別じゃない午後”のしあわせ
車を停め、浜辺に降り立つと、その広さに驚いた。
門川湾に面し、約1.5㎞つづく向ヶ浜。ゆるやかな弧を描く浜辺に、白い波が次々と押し寄せている。
8月の平日、午後1時。子どもたちは夏休み期間中だというのに、砂浜にはだれもいなかった。
宮崎県といえば、サーフィンの名所として知られる。一方、ここ向ヶ浜(むかえがはま)は、釣り人たちに人気のスポットらしい。
けれど、この日の先客はひとりだけ。
広い砂浜を独り占めしたような気分だった。
〔駐車場から松林を抜けて、浜辺へ下りる。丸太を土台にしたお手製の階段は、ちょっぴりスリリング〕
太平洋のうねりを受け止めた波は、思っていたよりも力強い。
その音に耳を傾けていると、頭の中に漂う日々のあれこれも、引き波と一緒にすうっと遠ざかっていくような気がした。
役場から車でわずか5分。こんな景色が、町の日常のすぐそばにある。
左前方の沖には無人島・乙島を望み、北側には五十鈴川が流れ込む。
〔沖に浮かぶ乙島。女性(乙女)が仰向けに横たわっている姿に見える、といわれているらしい〕
海を眺めに来たはずが、いつのまにか視線は足元に落ちていた。
砂浜には、きめ細やかな砂と、川原にあるような角のとれた小粒の石が混ざっている。
赤茶、青、緑、灰色。波をかぶって濡れた石は、光を受けて色を変え、ひとつひとつ違う表情を見せていた。
手のひらにのせ、重みを確かめる。丸いもの、細長いもの、模様の入ったもの。
いつのまにか、自分のお気に入りを探すことに夢中になっていた。
季節は夏。晴天の灼熱の陽気だというのに、汗まみれになっていないのは、潮風が火照った体をやさしく冷ましてくれているからだろう。
浜の南側へ歩いていくと、流れ着いた流木があちこちに積み重なっていた。少し歩きにくい。
最初はただ「ずいぶん多いな」と思っていた流木も、歩いているうちに、そのねじれや枝分かれした形がおもしろく見えてくる。
巨大な流木は、天然の椅子のようだった。
長い浜を歩き、砂や石に足を取られながら、疲れたら流木に腰を下ろす。海を眺める。また立ち上がって歩き出す。
どう過ごすかは、だれにも決められていない。
特別なことは、何もしなくてもいい。
ただ歩いて、立ち止まって、石を拾って、波を聞く。
それだけあれば、その日の午後は十分だった。
〔松林の中の遊歩道。少し日陰で涼んでから帰ろうっと〕



